味の素グループのデジタル変革(DX)

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食と健康の課題解決企業へ
―パーパス(志)経営への転換を「スピードアップ×スケールアップ」で加速―

当社グループは食と健康の課解決企業として、社会変革をリードする存在でありたいと願っています。その様な存在になるための味の素グループの最大の課題は、力強い成長力の回復です。この課題を克服することなくして、社会変革をリードする存在にはなり得ません。この課題を解決するために欠かせないのが、経営の「スピードアップ×スケールアップ」(頭文字をとってS×S:エス・バイ・エスと読みます)です。新しい執行体制の下、ASV経営の進化、「志×熱×磨」の追求、そして経営のS×Sを経営方針として明確にしました。その方針に基づいて当社グループでは、オペレーション変革、エコシステム変革、事業モデル変革、イノベーション創出、技術資産強化、ブランド価値向上、人的資産強化等多くの変革に取り組んでいます。それらの取り組みに使えるデジタル技術はフルに活用してスピードアップとスケールアップを図ってきています。

広義のデジタル・トランスフォーメーション(DX)とは社会のデジタル変容を意味するものと捉えておりますが、当社グループでは「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」をパーパス(志)として、社会価値と経済価値を両立させるASV経営を進化させ、「志×熱×磨」を追求し、「スピードアップ×スケールアップ」を図る手段としてDXを推進しています。そして当社グループが真の意味で「食と健康の課題解決企業」に変革することをDXの目的としています。

取締役 代表執行役社長 最高経営責任者
藤江 太郎

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DXで「食と健康の課題解決企業」へ

当社グループは食と健康の課題解決企業として、社会変革をリードする存在でありたいと願っています。広義のデジタル・トランスフォーメーション(DX)とは社会のデジタル変容を意味するものと捉えておりますが、当社グループでは「食と健康の課題解決」をパーパス(志)とし、社会価値と経済価値を両立させるASV経営を進化させる手段としてDXを推進しております。当社グループのDXは、デジタル技術の力をフルに活用してオペレーション変革、エコシステム変革、事業モデル変革を実現するとともに、社会変革をリードすることを目指しております。

当社グループのDXは、2018年度から準備しました。先ずCDOを任命しDX推進準備委員会の設立を経て、それまで局地的に行われていた活動を統合しグローバルに活動を開始しました。2019年には正式にDX推進委員会およびDX推進部を立ち上げ、グループ関連企業を含めグローバルに全面展開を開始し致しました。「食と健康」は、重大な社会的課題の一つであり、ESGとも密接にかかわっており、当社グループのみならず、他企業団体、行政などの重要関心事項でもあります。従前より当社グループはASV(Ajinomoto Group Shared Value)[2]を掲げて社会的課題の解決と事業(経済)成長の両立を戦略としてきましたが、この考え方を「食と健康の課題解決企業」というパーパス(志)で裏打ち・強化して、これを外部発信したことにより、当初より志向していました他企業団体・行政・アカデミア・医療機関・栄養士などとの連携が加速しはじめ、結果として連携効果(COLLECTIVE IMPACT)を発揮できるようになってきています。

デジタル技術のもつスケーラビリティー(拡張性)、スピルオーバー(汎用性)、シナジー(結合による付加価値)は、このような連携を可能にする大きなファクターと認識し、DXによる企業変革の必要要件として企業全体のリテラシー向上に努めています。当社グループは、「食と健康の課題解決企業」として生まれ変わり、社会のデジタル変容の良きパートナーとなり、「食と健康の課題解決」にリーダーシップを発揮し続けて参ります。

執行役専務 Chief Digital Officer(CDO)
香田 隆之

ASV経営で2030年のアウトカム実現へ

2030年までに「10億人の健康寿命の延伸」「環境負荷50%削減」というアウトカムを両立して実現することを目指します。「アミノ酸のはたらきで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人びとのウェルネスを共創します」というビジョンを掲げ、ASV経営(事業を通じて社会価値と経済価値を共創する取組み)を基本方針としてアウトカム実現に向けて取り組んでいきます。

中期計画から中期指標経営への進化

2030年の目指す姿の実現に向けて、中期経営計画から中期指標経営に進化することで、事業環境の変化を捉えて機敏に計画を見直しながら経営戦略を策定・遂行していきます。

食と健康の課題解決へ、あらゆる経営資源を集中

味の素グループは、「食と健康の課題解決」に向けて経営資源を集中するという方針のもと、中期経営計画において「人財と組織のマネジメント変革」「健康を軸とした生活者への提供価値向上」「効率性高く成長できる収益構造」に取り組んでいます。
本中期経営計画では、2020-2022年度をフェーズ1「構造改革」、2023-2025年度をフェーズ2「再成長」と位置付け、6年をかけて持続力のある事業構造への変革を目指します。さらに、それらをデジタルトランスフォーメーション(DX)でバックアップし、戦略遂行を加速させます。

1. 味の素グループのDX推進活動

「食と健康の課題解決」を推進するDX

味の素グループは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて市場競争力、効率性、生産性を高めていきます。グループ全体が共通のゴールおよびステップのもとDXを推し進めるためにDX(n.0)モデルを採用しています。

DX0.0働き方改革(自己変革)、DX1.0全社オペレーション変革、DX2.0エコシステム変革、DX3.0事業モデル変革、DX4.0社会変革
DX1.0 全社オペレーション変革

味の素グループでは、変革の基盤となるマネジメントシステムとして、オペレーショナルエクセレンス(OE)を導入しています。顧客価値の創出、従業員一人ひとりのスキル・働きがいおよび組織としてパフォーマンスの向上を目指しています。OEは、DX2.0、3.0、4.0を進めていく上での基盤となります。

DX2.0 エコシステム変革

外部のパートナーと適切に連携しながら、持続的に顧客への提供価値を高められるような価値共創システム(エコシステム)変革を志向しています。

DX3.0 事業モデル変革

これまでに蓄積した食と健康に関する多様かつ先進的な技術にデジタルの力を加えることで、顧客ニーズを充足する、新事業モデルの確立を目指します。

DX4.0 社会変革

経済価値と社会価値の両輪から業界全体の底上げをし、生活者、関連業界へASVのデモンストレーションを目指します。

2. 主なデジタル技術の活用

DXを推進する上で、機能別の小委員会(マーケティング、SCM、R&D、人財育成)を設定しています。各委員会が上記モデルに沿って情報技術を用いて活動を推進しています。

(1)マーケティング

顧客視点でのパーソナライズドマーケティング

食と健康に関する顧客の多面的な情報を多くのタッチポイントで入手し、データを集積してDMPを構築します。商品、サービス、開発データを統合運用し、新しい顧客価値・顧客体験(CX)を顧客に提供します。

(2)R&D

スペシャリティとイノベーションの方程式

当社グループは、調味料、食品、アミノ酸、化成品、電子材料など様々な事業を展開していますが、スペシャリティ商品の開発や商品サービスを通じたイノベーションの考え方はモデル化されており、下記のように方程式化されます。この方程式に従って、BIGデータを蓄積(開発DMP)、AIを応用する事によってスペシャリティ開発、イノベーション商品、サービスの開発が事業枠を超えて実現できます。

(3)SCM

スマートSCM

現状のSCMオペレーションには、多くの人員と様々な情報手段(FAX、エクセルシート、メール)が存在する非常に複雑なオペレーションとなっており、結果、在庫、コスト、ESG課題が多い分野になっています。ここをスマート化するためには、様々な形式のデータを読み取り蓄積するDMPおよびそこに適切なアルゴリズムを働かせて合理的な判断をするAIの導入が必須です。このため、デジタルネイティブなエキスパートの支援を受ける事が必須です。また物流の整流化などリアルなオペレーションの改善には、先行他社のノウハウを導入する事も重要です。当社グループは、企業の壁を越えた食品を共同配送するジョイントベンチャーのF-LINE(株)を設立しました。その他企業間を合理的に結び付ける物流システムを開発導入することがSCMの社会的課題の解決につながると考え、リーダーシップを発揮したいと考えています。

スマートファクトリー

当社グループのスマートファクトリー構築は、M4.0 プロジェクト(マニュファクチャリング 4.0:安定化→標準化→完全自動化→SCM との結合)から始まりました。DX では、この M4.0 をベースに、センサー、ロボット AI の導入により、これまでにない高いレベルの生産性が実現できるようになりました。事業や物流と同期しながら、自己学習し、改善し続ける、高度に整流化されたスマートファクトリーの実現を目指します。

3. DX推進体制

(1)DX推進体制

DX推進とその横断的な統括を目的とし、CDO(Chief Digital Officer)がリーダーを務めるDX推進委員会を設置しています。また、DX1.0「全社オペレーション変革」とDX3.0「事業モデル変革」を遂行するためにCEO直轄のタスクフォースを立ち上げ、それぞれCXO(Chief Transformation Officer)とCIO(Chief Innovation Officer)が統括しています。CEOのもと、CDO、CIO、CXOが一丸となって2つの事業本部、コーポレート本部をサポートしながら変革を進めています。

(2)ビジネスDX人財育成

DXを実践するのは一人ひとりの従業員であることから、2020年度に「ビジネスDX人財」「システム開発者」「データサイエンティスト」の育成を開始しました。外部からの登用による補強も行っています。特に「ビジネスDX人財」については、味の素(株)において2020-2022年度の3年間で100名体制を目指して初級・中級・上級の教育プログラムを開始したところ、2020-2021年の2年間で従業員の約60%に相当する延べで1865名が認定を取得しました。国内外のグループ会社においても順次、育成カリキュラムの導入準備・開設を進めています。

(3)外部組織との連携

主要コンソーシアム・勉強会等一覧

他社との協業や外部サービス活用、コンソーシアムへの参画を積極的に推進しています。東京大学、京都大学、弘前大学など多くの外部組織と協業を実施中です。

4. 最新技術活用を推進する条件整備例

(1)情報処理技術の環境整備

DX 推進のリスクは、①サンク(消失)性、②企業データ、個人情報の漏洩、流失、③GDPR(一般データ保護規則)などのデータの取り使いに関する事故や法令違反などです。①サンク(消失)性は、デジタルへの投資(人財、情報、データなど)が情報や知識などに対する無形資産の投資である事から、その投資がうまくいかない時に、価値が消失(ゼロ化)する事を意味します。投資に関しては、有形無形を問わず、企業等提携委員会、投融資委員会等を設置してあり、デジタル関連への投資の場合には、このサンク性を厳しくチェックします。②企業データ、個人データの流失に関しては、情報リスク委員会主導で、IT システムのセキュリティーの強化(ゼロトラストネットワーク構築等)によって、外部からのスパイウェアの侵入やハッキングを防止する事、および企業行動委員会を通じての啓発活動の両面でリスク対応します。③GDPR 対応は、経営リスク委員会をトップ組織として、情報セキュリティー委員、専門家、外部アドバイザーを入れ、グローバルに完全な対応をする体制を組み、リスク対応します。

(2)DXに関する投資計画

2021年3月23日に開催されたIR Dayにて代表執行役副社長(CDO)より中期経営計画におけるDXに関する投資を説明しました。これは「味の素グループのデジタル変革(DX)」を補足説明するもので、公表内容は弊社取締役会の決定に基づいています。

・2020-2022年:約250億円
・2023-2025年:約200億円

(1)全社重点KPI

DXのゴールと重点KPI

DXのゴールは全社同一であるという考えのもと、全社の重点KPIとしては以下の5つを設定しています。
①効率性の観点からROIC
②成長性の観点からオーガニック成長率
③重点事業売上高比率
④従業員エンゲージメントスコア
⑤単価成長率

(2)各取組みのKPI

各機能においてKPIを設定し、DX活動を推進しています。

味の素グループは、お客様の情報および会社の機密情報を厳密に取り扱うとともに、「情報セキュリティに関するグループポリシー」とこれに紐づく情報セキュリティ規程、各種の基準、ガイドラインを策定し、サイバーセキュリティの確保に全社を挙げて取り組んでいます。各組織において情報セキュリティに関する事故その他の緊急事態が発生した場合に、最高経営責任者まで報告がなされ、適切に対応できる体制を整えています。具体的には、情報管理に関する研修、情報セキュリティテスト、標的型メール攻撃対応訓練を実施しています。セキュリティ点検としては、1回/年の全職場セキュリティ自己点検を実施しています。

事例1: 医療モダリティの進展に応えるソリューションを顧客と共創

世界では様々な先進医療モダリティが進展し、その実現に必要な原薬の需要が高まっています。特に核酸医薬分野は市場が大きく成長すると見込まれており、当社グループ独自の生産技術を活かして難病疾患治療向け原薬を提供するサービス「AJIPHASE®」)のほか、タンパク質や抗体薬物複合体等、中分子・高分子医薬品開発の促進、mRNAや遺伝子治療、ワクチン領域への展開も進めています。
さらに、再生医療や細胞治療を実現する細胞治療サポート事業にも取り組んでいます。例えば再生医療用培地では、京都大学iPS細胞研究所をはじめ再生医療をリードする組織と開発エコシステムを構築し、高品質・高性能なiPS細胞用培地を提供することで臨床開発に貢献しています。iPS由来細胞治療製品の臨床用途に関して、国内におけるデファクトスタンダードのポジションを維持しながら積極的な海外展開を図り、世界中の人々の健康に貢献します。

事例2: 時代に求められる機能を見据えて電子材料の開発を加速

化成品事業から派生し、事業モデル変革に成功したのが電子材料事業です。その主力製品である半導体パッケージ用層間絶縁材料「味の素ビルドアップフィルム®」(ABF)は、パソコンやサーバー等の半導体パッケージ基板の基幹部品として業界標準となり、半導体市場の成長とともに事業も拡大しています。
そして、マテリアルインフォマティクス等のデジタル技術を活用した開発を加速させることで、高速化・大容量化・小型化・省エネ等、世代ごとに求められる機能を有する次世代ABFや先進材料を次々と展開しています。また、半導体業界で構築された開発共創エコシステムにも参画し、未来社会における高速通信の実現に向けて変革し続けています。

事例3: バーチャルとリアルが融合したサービスで顧客体験を進化

「お客様の健康課題の解決」「自分らしさの実現」「楽しさ、豊かさの実現」に向けて、献立やレシピ、加工食品やサプリメント等、バーチャルとリアルが融合したソリューションの提供を目指しています。当社グループが展開する「おいしさと好みのプロファイリング」、「味の素グループ栄養プロファイリングシステム(ANPS-P/M®)」、「健康リスク評価」、「献立/レシピ提案」等のエンジンとデータベースを通じて各サービスをつなげることで、顧客体験の進化と、食品とアミノサイエンスを融合したサービス・製品の高度化を図ります。
例えば、認知症予防の領域においては、血中アミノ酸の分析を通じた認知機能低下リスクの評価(アミノインデックス®)や、食事ログからスコア化した脳機能維持のための献立提案(「100年健脳手帳®」)、サプリメント「脳活セブン アミノ®」および認知機能の維持に有効な食事の提供を行っています。また、糖尿病予防として適正糖質の献立提案やサプリメント提供にも取り組んでいます。

事例4: 味の素グループならではの持続可能なフードシステムを構築

動物性たんぱく質の需要増加に伴う将来的な供給不足、食糧生産が与える環境負荷を背景に、植物由来の代替肉や培養肉が注目されています。当社グループは、植物由来の代替肉へのアミノ酸を活用した健康・栄養価値の付与、おいしくて購入しやすい培養肉の開発・生産サービス、二酸化炭素から作られたアミノ酸やたんぱく質の開発・活用等、環境に配慮した食品素材の開発に向けたソリューション提供を進めています。その一環として、スタートアップとの協業も積極的に行っています。さらに、各国・地域の食文化に応じつつ健康と環境に配慮したサステナブル食の提案や、新技術や新素材に対する生活者のポジティブなパーセプションの醸成にも力を入れ、持続可能なフードシステムの構築を目指します。